AUKUSをめぐる各国の思惑

○AUKUSはブレないバイデンの証し2021.10.21

インドと中国の国境地帯では昨年来、両軍が衝突している。南シナ海では国際社会が公海とみなす海域や、ブルネイベトナム、台湾、フィリピン、インドネシアなどの経済水域の領有権を中国海軍が虎視眈々と狙っている。インド太平洋地域の価格は今後「中国と組むかアメリカの組むか」という究極の選択を迫られる。

不意打ちを喰らったマクロンは、大統領選を来年4月に控えたタイミングで、大口雇用を生む巨額の契約を失った。フランス海軍は太平洋一帯で航行の自由作戦を定期的に実施しており、AUKUSはフランスの対中戦略を損なうものだ。

バイデン政権の包括的なインド太平洋戦略においてはフランスの怒りは大した問題では無い。バイデン大統領は就任以来中国に対抗する戦略を相次いで繰り返しておりAUKUSもその一つに位置づけられる。

 

 

○AUKUSへのオーストラリアの言い分2021.10.5

AUKUSには技術的リスクと政治的リスクに絡む問題が存在する。重要なのは2つを混同しないこと。

①技術的に見ればオーストラリアの目的に最も適しているの原子力潜水艦潜水艦だとの主張には強い説得力がある。一方オーストラリアにとってはより小型で低騒音で機動性の高い通常動力型の潜水艦を大幅増常備する方が総合的な利益になるのではどの意見もある。

原子力潜水艦には核拡散と安全面のリスクがあるが、反対にオーストラリア世論は核武装をせず全ての国内政党がその可能性を除外している。

②政治的リスク。フランスとの対立の副産物、オーストラリアの大幅な能力向上が地域に与える影響、アメリカとの新たな関係にによって独立性が損なわれるのではないか、対中関係の大幅な悪化を招くだけではないかと言う懸念。

原子力潜水艦の技術供与を始めとするAUKUSUKの防衛プログラムは、ある国の敵意への対抗措置ではなく、地域内各地で起き得る将来的脅威へのオーストラリアの反応能力を強化するものとして捉えられ、受け入れられるべきだ。

言うまでもなく中国はAUKUSの創設発表に否定的な反応を見せた。とは言え米豪の安全保障関係を不動のものと位置づける中国にとって、今回の発表大きな驚きはない。自国の国益にかなうなら鉄鉱石輸入などの形でオーストラリアと取引することもいとわないはずだ。AUKUSはオーストラリアがついに反中陣営に加わったことを意味しない。

 

 

○バイデンの外交次第に中国は高笑いする2021.10.5

AUKUSをめぐりアメリカはフランスの怒りを買った。米英がオーストラリアに原子力潜水艦技術を提供することになり、オーストラリア政府がフランスとの潜水艦建造契約を破棄した。

バイデン政権にとってAUKUS発足は中国への牽制と言う意味で大きな成果だ。

フランスにとって潜水艦12席を売り損なうことは決定的な違いとまでは言えない。バイデン政権が犯した過ちはフランスの心情への外交的配慮を怠ったことだ。

フランスはドゴール大統領の時代からずっと、アメリカがインドシナ地域に首を突っ込まないよう釘を刺し、アングロサクソン諸国が同盟を組んでフランスを一方的に排除することを恐れていた。

インド太平洋地域にいくつかの島と軍事基地を保有するフランスは、自国をこの地域のプレイヤーとして位置づけており、米中対立の緩衝材になり得る存在だと考えていた。しかしアメリカがこの地域でフランス冷淡に締め出しEUから出て行ったばかりのイギリスと一緒になって行動しようとするのには、フランスにしてみれば侮辱的。

マクロンメルケルが退任した後の自由世界のリーダーを自認していてアメリカが世界への関与を弱める中で、EUの軍事力増強を強く主張してきた。そのマクロが安全保障協力からはじき出されておとなしく黙っているわけがない。

 

 

○AUKUSはインドへの福音 2021.9.29
AUKUSの最大の目的はオーストラリアが原子力潜水艦の艦隊を構築することを、米英が支援すること。インドはこの合意を歓迎するするべきだ。
AUKUSは中国の脅威に断固対処するというアメリカの強政治的決意の表れ。中国との間で緊張が高まっているインドにとって自らが参加していようがいまいが中国を抑止する措置は戦略的にプラスとなる。インドはカシミール地方の係争地で中国と小さな衝突を繰り返してきた。
アメリカから原子力推進技術を得ることに成功したオーストラリアが、フランスとすでに結んでいた従来型潜水艦の調達契約を破棄。フランスはこれまで積極的にインド太平洋の安全保障に関与し、懐疑的なヨーロッパ諸国の目を極東に向けさせてきた。それだけにオーストラリアを裏切りと受け止めても無理はない。
インドとフランスの戦略的協力関係は、近年急速に拡大している。その背景はフランスがこの地域に持つ海外領土や海軍基地。インドと提携すればフランスのこうした海外資産を防衛する能力を高められる。インドにはフランスと安全保障面で協力強化することにインセンティブがある。
だとすればインドはフランスから潜水艦を調達する契約を結ぶという手もあり得る。
インドはすでに核大国で原潜の独自開発を進めている。NATOのような単一の同盟よりインド太平洋の有志による重複する複数のミラテラル(少数国)の軍事協力体制を構築したほうが理にかなう。ニュージーランドは核アレルギーがあり、中国の脅威についてアメリカとは意見が異なりをAUKUSに不参加。
AUKUSの成果はアングロスフィア離れに歯止めをかけたこと。ニュージーランド同様、オーストラリアとイギリスも最近まで中国の脅威を軽視し経済的関与に乗り気だった。
中国の急速な近代化とインド太平洋でのプレゼンス拡大に、インドは攻撃型原子力潜水艦への移行も積極的に検討している。インドは1988年と2012年、ロシアから攻撃型原潜をリース、19年には3回目のリースについてもロシアと合意。
アメリカが原潜技術の供与を渋ってきたのと違い、フランスはブラジルの攻撃型原潜建造に向けた技術支援協定に調印している。
インドにとっては原潜を開発しロシアへ依存を減らす手段になる。AUKUSはアジア安全保障をめぐる駆け引きの重要なシフトを示している。
1970年核不拡散条約(NPT)発効以来、アジアの核秩序はアメリカの同盟国が核保有せずアメリカの核の傘に依存することを前提としてきた。だが中国の軍事力が増大し核の傘の信頼性が揺らぐにつれ、核兵器保有という選択肢が新たに議論されている。