総選挙とオール沖縄 2021.11.25

オール沖縄への支持が低下したとの評価もあるが、コロナ禍で基地より生活が争点となった選挙だった。

全国で最も貧困率が高く政府の補助金に依存しがちな沖縄は不況になると自民党が強くなる。

オール沖縄候補が勝敗にかかわらず軒並み20〜30代の支持率で自民候補に負けた。逆に60代以上の有権者は概ねオール沖縄支持。

働き盛りの子育て世代から支持を得られないのは不況の影響だけではない。保守系の知事をみこしに担いだ革新政党の寄り合い所帯であるオール沖縄の、知事のカリスマ性によって演出されていた目新しさとメッキが時間とともに剥がれ、伝統的な革新の地金が見えている。

沖縄の革新を支えるのは沖縄戦や米軍占領統治の記憶や抵抗の体験だが、それらを共有しない世代には、革新の反戦平和の主張や動員型の運動は「古い」と映る。

名誉と恥辱と報復と 2021.8.31

人はテロリストに生まれるわけではない。テロリストになるのだ。テロリストの頭の中では市民の犠牲をもいとわない「殺害許可」の認識が生まれる瞬間がある。そのために必要なのは標的を非人間化し悪魔化する認知。

『歪んだ正義 普通の人はなぜ過激化するのか』

特にイスラム系の部族社会で鍵を握るのは名誉、知力、法則と言う3つの概念。部族間で車の窃盗事件が起きると、被害を受けた部族の長は別の部族に「容疑者を差し出せさもなければ私の名誉にかけて報復する」と宣言した。それは名誉や恥辱、報復の概念で作る慣習法に基づく判決だった。

米軍と言う「よそ者」が土足で踏み込み部族社会より素晴らしい(西洋的な)中央集権的社会を作れと押し付ける。多くの部族長はそれに従うふりをして経済支援だけを享受しているように見えたが、タリバンは米軍と戦い、イスラム国系組織はテロを起こした。誇りを汚し持続する相手に命がけで報告往復するのは義務だと考えるからだ。

依存欲求が生物学的欲求と並ぶ基本的欲求である。(アリエ・クルグランスキ)

移民受容にEU後ろ向き 2021.12.10

ポーランドでは2015年難民を敵視する右派政党「法と正義」が政権を獲得。司法への介入やメディアへの圧力を強め法の支配をめぐりEUとの対立が激化していた。しかし今回、EUは今回ポーランドに連帯を表明している。ベラルーシが意図的に移民ら送り込んでいるとして、ベラルーシの追加制裁を発動。またEU人道主義的な発言も弱まっている。多くの移民が目指すドイツでは移民難民受け入れに寛容なメルケルが退任。首相に選出されたショルツも流入を阻止するポーランドの対応を静観しており、難民を進んで受け入れる機運には欠ける。ついこの間まで法の支配などをめぐり激しく批判されていたポーランド政府が、EUから絶対的な連帯を受けている。EUが口先で自慢してきた人道的価値観を裏切っている。

 


EU東部国境を越える移民の急増。イラク、アフガン、シリア、アフリカ諸国から。

イラクは2003年にイラク戦争英米軍がフセイン独裁政権を打倒したがその後、シーア派スンニ派の宗派対立が一時は内戦状態にまで陥った。さらに2014年にはISが席巻し混乱が長期化。ISは17年に駆逐されたが、政治腐敗に庶民が苦しむ構図が続く。公務員等の仕事を得るには政治家とのコネが必須と縁故主義が横行している。2019年には経済不振や就職難、汚職に怒る若者中心のデモが起きた。

シリアも深刻な状況。アラブの春を機に民主化を求める市民と弾圧するアサド政権との戦闘が内戦に発展。その後アサド政権は国土の7割を支配。一方トルコが支援する反体制派やクルド人の支配地域も残る。アメリカなどの経済制裁に加え、関係が深いレバノンの経済混迷でシリア経済は大きな打撃を受けた。燃料や電力の不足が常態化。国外へ逃れた市民の中にアサド政権による拘束を恐れて帰国諦めている人々もいる。多くはトルコなどの近隣国で暮らすが、受け入れを重荷に感じる地元住民との摩擦もある。

2021年最も不安定化しているのがアフガニスタンスンニ派タリバンシーア派を信仰する少数民族ハザラ人を迫害した過去がある。同じスンニ派だがタリバンと対立するIS-Kもハザラ人を標的としたテロを繰り返している。

揺らぐ南北統一のコンセンサス 2021.10.26

近年、状況や価値観の変化に伴い南北統一に対する人々の思いが変わってきた。その背景には世代交代と政治的イデオロギーの変容がある。伝統的に韓国のエリートは北朝鮮の攻撃的な姿勢に対して愛憎半ばする感情抱いてきた。革新は特にそうだ。彼らは北朝鮮に相手にされなくても友好関係を築こうとした。保守派も北朝鮮に懲罰的な態度を取ろうとしなかった。2010年に韓国の哨戒船が北朝鮮に撃沈された時でさえ当時の李明博大統領は南北経済協力のシンボルであるケソン工業団地を閉鎖しなかった。朴槿恵で も大統領就任早々、北朝鮮のミサイルの脅威に直面したにもかかわらず対話と交流路線を変えなかった。

とは言え調査結果を見ると10年代初めから韓国の人々の北に対する見方は変わってきた。特に若年層では顕著。若い世代の間では民族的なナショナリズムではなく市民的ナショナリズムに基づく新たな国民意識が根付きつつある。若い韓国人は南北統一が自分たちや自分たちの国にとって有益だとは必ずしも考えていない。韓国の保守政党はもはや老人支配ではなくなっている。最大野党「国民の力」の代表は36歳。彼は統一にさほど熱心ではない。青瓦台の左派は「正しい道は平和的な統一だ」と言うコンセンサスにこだわり、政府関係者は記者会見で南北関係が順調に前進していると繰り返してきた。こうした動きは平和的な吸収型の解決から政治レベルで複雑な駆け引きを可能にする。心理戦・戦略的な戦い型の抑止力の向上へとスタンスが変わる可能性を示唆している。

同じ民族であると言うルーツはもはや統一の合意形成の基盤にならない。北朝鮮に対する韓国の態度は、政府が南北関係について楽観的か悲観的かによって大きく揺れ動いてきた。政府の政策が韓国の世論をリードしてきたようなもので、政府が平壌との協力と対立のどちらの政策を追求するかで流れが決まる。

青瓦台も攻略した北の工作活動が明るみに2021.10.26

北朝鮮が90年代から2010年まで韓国に行った秘密工作の実態が明らかになった。北朝鮮工作員は90年代におよそ6年間青瓦台に勤務した後、北朝鮮へ帰還した。

金正恩総書記は脱北者などを朝鮮労働党の敵を暗殺するテロ特別部隊の創設を命じた。北朝鮮が国際的麻薬取引や韓国領内での複数の事件に関与した疑惑も事実だと証言。朴正煕暗殺を狙った68年の青瓦台襲撃未遂事件も。

北朝鮮はより人目につかない工作活動もしてきた。70〜80年代に自国スパイの言語文化教育係にする目的で韓国や日本など外国人を拉致し、作戦遂行に役立つ諸外国の貴重な知識を備えた信頼度の高い工作員を養成した。特に日本で大きな成功を収めた。既存の共産主義思想や一部の在日韓国朝鮮人が抱く反日感情を利用して新北団体の結成に動き、これらの組織を事実上の北朝鮮大使館として、後にはマネーロンダリングや諜報活動のハブとして機能した。

80〜90年代の韓国では共産主義への支持を強化しようとした。軍関係者から機密情報を引き出し政治利用することを目的に女性スパイのハニートラップもしかけた。脱北者を装ったウォンジョンファが、機密情報入手や有毒化学物質による要人暗殺を狙って韓国に入国したのは2001年。軍人3人以上と関係を持ち、その1人である陸軍大尉から軍事機密の提供を受けていた。

90年代に北朝鮮工作員青瓦台内部で活動していたことを裏付ける確かな証拠はまだない。

アメリカ当局の報告では近年北朝鮮によるサイバー諜報活動が拡大。金融・航空・防衛・医療・コロナワクチンを試験する研究所までもが狙われている。

TSMC誘致で始める日本再興 2021.11.16

TSMCのが日本初となる工場を熊本県に建設する。

日本の半導体産業はほぼ壊滅状態となっておりこのままでは半導体メーカーに部材や装置を提供する国内メーカーの存続も危うくなる。

政府がこうした事態を防ぐため数千億円の資金をTSMCに提供することで同社の日本酒 進出を取り付けた。

外資系企業誘致して国内雇用を創出するのは典型的な途上国の産業政策だが、国際競争力を失った日本にとっては現実的な選択肢と言える。

日本の産業政策は「ターゲティングポリシー」と呼ばれ特定の産業分野に対して補助金や税制などで支援を行い競争力を強化するしてきた。どの分野が有望なのか事前に政府が決めるというのは計画経済的な手法であり、高度なイノベーションを必要とする現代社会では通用しないというのが世界のコンセンサス。ところが日本政府がこの手法に固執し、国際競争力を失った半導体産業に対しても同様の政策を適用。国策半導体メーカーを発足させるなど巨額の支援を行ったが成果はほぼゼロだった。

政府はこの現実にようやく気づき、外国の優れた企業を国内に誘致する現実的な戦略に切り替えた。

今回TSMCが日本に建設する製造ラインでは最先端技術は一切使われていない。

著名IT企業が次々と国内に誘致し、労働生産性で世界一を達成したアイルランドの事例。かつてアイルランドは景気低迷と失業問題に苦慮していたが、インテル社の工場建設をきっかけに半導体、製薬、ソフトウェアなどの高度な製造業の誘致を推進。同時に徹底的なIT教育を推進し優秀な労働者の育成を図った。同じ工場の誘致でも教育政策とセットにすることで、より高い賃金が得られるという現実をアイルランドを示している。進出企業が獲得する利益は外国のものだが、労働者や取引企業に支払われる金額の方が大きく、国内経済への貢献度が高い。

欧米が振りかざす緑の植民地主義 2021.11.16

ノルウェーはロシアに次ぎ欧州一帯に最も多くの天然ガスを供給しておりつい最近も26立米の供給増で合意したばかりだ。

ノルウェー政府が一部の最貧国に対しては天然ガスを使わな・掘るなと圧力をかけている。

他の北欧諸国やバルト山国と足並みをそろえて世界銀行に働きかけ、アフリカ諸国等での天然ガス事業への入所2025年までにやめろ、経過期間中の融資も例外的な場合に限ってものにせよと要求している。

バルト三国は世銀に、途上国はスマートマイクログリッドや緑の水素の導入を促すべきだと要求。しかしスマートマイクログリッドは現時点で先進国に一切存在していない。緑の水素は現時点で最も複雑かつ高コストの技術。太陽光発電風力発電の設備なら数年で設置できるかもしれないがそれだけではグローバルサービスのエネルギー需要を満たせない。

インドや中国では調理用のガスボンベが普及し多くの人命が救われてきた。天候に左右される風力や太陽光だけでは必要なエネルギーを確保できないから現時点では化石化石燃料を使わざるを得ない。

だからこそノルウェーは国産の石油や天然ガスを使用制限しない。自分の国や天然ガスが必要だが途上国が天然ガスに手を出す事は許さないと言う理屈だ。これは環境保護の顔をした「緑の植民地主義」。

国の発展に膨大なエネルギーの持続的供給が必要なのに、先進国は途上国に対し「発展を諦めろ」「貧しいままでいろ」と告げている。そのかわり気候変動対策の資金を援助すると言うがそれだと途上国はいつまでも先進国に依存することになる。このやり方ではアフリカの貧困から脱却する道が阻まれる。

現時点で再生可能エネルギーだけで電力のほとんどをまかなっているのはアイスランドだけ。

肥料やセメント鉄工の生産にも化石燃料が不可欠で、安く低炭素な代替原料はいまだ存在しない。

収穫量を増やすのに使う化学肥料の生産には天然ガスが欠かせない。道路や建物の建設にはセメントや鉄鋼が不可欠だ。食品や医薬品の冷凍保存にもトラックの運送にも石油と液化天然ガスが必要。

ノルウェーは先進国でもっとも化石燃料への依存度が高い。原油天然ガスが輸出の40%、GDPの14%、政府歳入の14%、雇用の7%を占めている。天然ガスの埋蔵量が欧州最大級で、世界第3位の輸出国でもある。そんな国がアフリカ諸国に発展を諦めろと宣告している。

アメリカ政府ら温暖化対策で高い目標を掲げたが、産油国に対しては増産を求め、アメリカ人の需要を満たそうとしている。ドイツ政府も野心的な排出削減目標を掲げる一方で、国内産業の脱石炭には20年近い猶予与えている。サハラ以南のアフリカ48カ国には10億人以上の暮らしているが、その温室効果ガス排出量は世界全体の1%未満。貧しい国が貧困から脱することができるように少なくとも今後20年間天然ガス事業への資金提供を続けるべきだ。