科学者が見誤った変異株の正体(2021.8.24)

○科学者が見誤った変異株の正体
一般の病原体に比ベて新型コロナウィルスの変異の頻度が格別に高いわけではない。人間の細胞でもそうだが、増殖にあたって自らの遺伝情報を正確に複製するのに失敗した時、変異が生じる。
新型コロナウィルスの場合、増殖にあたって複製すべき遺伝子の数は多くない。遺伝子の数は誰の体内にもいる大腸菌は約3000,人間の細胞なら約2万だが、新型コロナウィルスは15前後。しかも既存のウィルスと違って無用な複製ミスを遺伝子レベルで回避するチェック機能を備えている。新型コロナウィルスの突然変異率は比較的低い。

まず先行する膨大な数のウィルス(アルファ株やベータ株)を駆逐し、生存競争に勝ってそれらにとって代わる必要がある。既存のウィルス株よりも強い増殖力を持ち、かつ宿主に感染しやすいことが条件となる。新型コロナのように呼吸器系を襲うウィルスの場合でいえば、大気中で生存できる時間が長く、空気に乗って遠くまで移動でき、かつ宿主の鼻腔内の粘膜に取り付く力が強くなければならない。
流行中のウィルスが1年の間に危険度の高い変異株を生み出す可能性は非常に低い。しかし何十億もの人が感染しその体内で何十億回も増殖を繰り返していればどこかで危険な変異株が生じる確率は高まる。
一度感染し免疫をつけた人の増加も救いにはならない。

深刻な変異株はデルタ株が最後だとは誰も言えない。/デルタ株は人類が遭遇した最も感染力の強いウィルスの一つで、これ以上に感染力の強い変異株の登場は難しいように見える。

感染力のより高い変異株出現の可能性を高めるのが、「変異株同士の競争においては、突然変異で獲得するほかのどんな特性よりも単なる感染力が最大の利点になる」という事実だ。
つまり突然変異が感染力を高める部分におきた場合、感染拡大を引き起こすためにその変異株が選ばれる。

今のワクチンの大半は人の免疫システムを起動させ、ウィルスのスパイクタンパク質を攻撃させるように作られている。だが突然変異はスパイクタンパク質の形状をわずかに変えることがあり、免疫細胞がこの偽装を見逃す可能性がある。そうなればワクチンの有効性は低下するかもしれない。

新型コロナウィルスはインフルエンザウィルスとは異なり、異なる変異株同士で遺伝子を組み替える構造を持たない。インフルエンザの場合はこの組み換え能力があるためにワクチンの対象となるウィルスの株は毎年変わる。