中野剛志「新自由主義と保守主義」

中野剛志「新自由主義保守主義

レーガンサッチャーは新保守としても位置づけられていた

保守主義
エドマンド・バーク:保守思想の源流
・伝統的共同体、持続的な人間関係、安定した社会秩序
・アトム的な個人ではなく、共同体固有の生活様式や文化、国土、環境に成約された存在としてある、という人間観
・保守の唱える「自由」はナショナルな共同体や文化に成約された自由(ネオリベは一切の障害がない自由=消極的自由)

ネオリベ
・個人の選択の自由を尊重:家族など伝統的価値観を破壊
・雇用流動化:共同体の紐帯破壊、個人の孤立化
グローバル化は歴史の必然であり逆らうことはできない=唯物史観進歩主義唯物史観進歩主義保守主義が避けてきたもののはず

以上のように、保守とNLは相容れないはずが、新自由主義者が保守を自認している状況。

・ジョン・グレイ「保守はNLと結びついたことで死んだ」
・コリン・クラウチ「NLは不死身だ」
・ジョン・クイギン「NL=ゾンビ経済学」

●19世紀第一次グローバル化の時代、保守はグローバル化市場原理主義個人主義に批判的だった。
・コールリッジ(ロマン派詩人):産業革命によって格差拡大したことを問題視。積極財政派。個人主義功利主義・穀物法廃止して自由貿易リカード)に反対、労働法制保護。「道徳や宗教心を回復し過剰な営利精神を節度あるものにするべき」。
・ディズレイリ(保守党):産業革命で格差拡大した結果、国内が貧富で分断、交流がなくなり「2つの国民」になってしまった。
・ルイ・ド・ボナール:アダムスミス批判。国富とは個人の持っている物質的な富の単純な総和ではない。国体や国民の政治的・宗教的な法から発生する力、道徳的力。
・フリードリッヒ・リスト:保護主義により国民統合する産業政策。イギリスの経済自由主義を批判。世界はグローバル・エコノミーよりナショナルエコノミーを重視すべき。

●20世紀に保守は共産主義全体主義に対抗するために自由主義者と共闘するようになる。ただ70年代後半まではネオリベに懐疑的だった。
アーウィン・クリストフ:フリードマン批判。
・イアン・ギルモア:ハイエクを批判。
ハイエク:「自分は保守ではない。19世紀保守は社会主義に近かった」

●80年代以降:保守が新自由主義と野合
・70年代:先進国はスタグフレーション(インフレ+不況)に苦しむ。アメリカは人種問題、ベトナム戦争財政赤字ウォーターゲート事件。政府の権威失墜。
・サミュエル・ハンチントン:「先進国で統治能力の危機が起きている。原因は60年代「民主主義の過剰」。60年代ベビーブームで若年層拡大。民主的価値観で彼らが政治的権威に反抗するようになる(政治参加・福祉要求)。結果財政出動財政赤字でインフレ発生。財政赤字が膨らむと増税が必要だが、人気がとれないので増税できず。統治能力を高めるためには民主主義の抑制、節度あるものにする必要=エリートによる統治の復権。民衆に政治参加をさせすぎないこと。
・伝統的に保守主義者はノブレスオブリージュに基づくパターナリスティック(父権的、上から)の統治を取る傾向。
エドマンド・バークフランス革命を批判したことで保守として名を挙げた。
・80年代以降に統治のためにエリート層が採用したのが新自由主義。民主主義の過剰を抑制するのではなく、過剰な民主主義によって圧倒的な支持を得ていた(レーガン、小泉)。
新自由主義は中身が無い出鱈目なイデオロギー。にも関わらず採用したのは、統治の中核として位置づけられるエリート層が劣化したから。グローバル化=統治能力の劣化。
・統治能力がなければケインズ主義政策はとれない。市場を制御できない。ノブレスオブリージュの精神を放棄したエリート。この「放棄」を正当化するのは新自由主義者が提供した自由放任の理論。
新自由主義政権は長期化する傾向(レーガンサッチャー、小泉):統治者が責任を取らなくていい政権なので、何をやってもその結果の責任を負わなくて良いため。格差拡大を咎められても「市場原理・自己責任で政府には対応不可なので仕方がない」

●現代グローバル資本主義
・現代のデフレは1929の大恐慌と似た構図=グローバル化のあとに来る恐慌。ケインズ・ポランニーが明らかにしたように、市場原理主義がもたらした恐慌。公共投資・労働者保護・格差是正等、政府の経済介入を強化して市場を制御することが処方箋。
・しかし現実には緊縮財政や貿易自由化。
トクヴィル「過去が未来を照らさなければ精神は暗闇の中を彷徨うことになる」(『アメリカの民主政治』より)。アメリカの民主政治が現在問題化。連邦政府財政破綻寸前。ブレトンウッズ体制構築二十代な役割を果たしたのがアメリカだったのだが、現在では世界経済にとっての脅威、国内経済を立て直すことすら危うい。
・ユーロ各国:マーストリヒト条約:不況になっても積極財政をできない、通貨切り下げをできない。東・南ヨーロッパは失業。ユーロ外のイギリスも自ら緊縮財政。
・日本は欧米に比べて政治基盤が安定しているのだが、自ら緊縮財政、規制緩和、法人減税を行ってしまっている。TPPでデフレ拡大懸念。
・各国でエリートが新自由主義を信奉。国民経済の統御をする責任を放棄。